最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)5052号 判決 1953年12月25日
主文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差戻す。
理由
弁護人木下郁の上告趣意第一点、第二点は、いづれも刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
しかし、業務上横領の点につき職権を以って調査するに、記録上判示農業協同組合の組合長たる被告人が判示貨物自動車営業に関して組合資金を支出したことが、被告人自身の利益を図る目的を以ってなされたものと認めるべき資料はないばかりでなく、それが組合のためにもなされたものであることはこれを否定し得ない。殊に被告人が判示組合名義を以って小野等から譲受け、組合名義を以って経営するに至った貨物自動車営業は、原判決の説示する如く、組合の総会及び理事会の議決を経ず、定款に違反して被告人が独断でその営業を継承したものであるとしても、この営業のためにした支出が専ら組合以外の者のためになされたと認めるに足る資料はない。してみると、判示貨物自動車営業が、原判決の認定する如く、たとえ判示組合の内部関係において、その事業に属しないとしても、被告人が該営業のため組合資金をほしいままに支出した一事を以って直ちに業務上横領罪を構成するものと即断することはできない。即ち、右支出が専ら本人たる組合自身のためになされたものと認められる場合には、被告人は不法領得の意思を欠くものであって、業務上横領罪を構成しないと解するのが相当である。然るに、原判決は被告人自身の利得を図る目的に出たか否かは同罪の成立に影響を及ぼすものではないとして右支出が何人のためになされたものであるかとの点について何ら判断を示すことなく、直ちに業務上横領罪を構成すると判示しているのであって、結局事実を誤認したかまたは法律の適用を誤ったものといわなければならない、そして、その誤は当然判決に影響を及ぼすべきものであり、且つ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって、刑訴四一一条、四一三条により、裁判官全員一致の意見を以って、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)